鰻の蒲焼が日本人のソウルフードな理由と冷凍ウナギの可能性

冷凍鰻の蒲焼の通販

「美味しんぼ」というグルメ漫画が存在します。

売上/利益重視で高度成長期を実現した日本人を鋭く風刺したり、当時は話題や注目を集めました。

連載開始直後の第三巻は、「炭火の魔力」というタイトルで、鰻の蒲焼を扱っています。めちゃくちゃ面白いです。

(その他にも和三盆を使った和菓子を紹介していたり、勉強になります)

そこで今回は「美味しんぼ」を参考に、冷凍ウナギを語ってみることにします。

私としては、これはこれで「アリ」だと考えています。

鰻の蒲焼と日本人

「美味しんぼ」が始まった1983年頃の日本は、高度成長期のおかげで活況を呈していました。

ただし日本に限らず世界中で売上/利益が重視していたものの、まだ環境保護といった視点は育っていませんでした。

(インターネットで検索すると分かりますが、今でもその頃にあった汚染土壌の管理が、地方自治体で粛々と実施されています)

最近では鰻の蒲焼というと高級品となってしまいましたが、まだ当時は庶民の手に届く存在でした。

炭火の魔力という「美味しんぼ」(第三巻)でも、鰻の蒲焼を好物とするのは警部さんです。

なんでこんなことを説明しているのかというと、「美味しんぼ」は売上/成長重視によって食文化を忘れることのあった日本人への警告メッセージであることが多かったからです。

例えば炭火の魔力では、そのタイトルが意味するように「手軽なガスよりも、手間がかかって大変な炭火の方が良い」という結論を打ち出しています。

そして興味深いことに、「寿司」は世界中で食べることが出来ますが、「鰻の蒲焼」は日本でしか食べることが出来ません。

「鰻の蒲焼」の方が焼いたものであるから、食品衛生面で安心できそうに思えます。でも寿司や天ぷらしか存在しないのです。

一見すると鰻という魚を焼いただけの食べ物だけれども、実は海外で再現するのが大変なのです。

その繊細さが、今でも日本では鰻専門店を生き残らせて、海外での出店を困難にしている訳です。

(まあカルフォルニアだと「寿司」といっても日本人の寿司職人は少なく、なんか微妙に異なった食材で、カルフォルニアロールなんていうメニューも存在しますけど)

そんな訳で寿司や天ぷらというのは日本人だけのものではなく、世界的な料理メニューに成長しました。

しかし鰻の蒲焼というのは、日本人だけが食べている「ソウル・フード」なのです。

炭火の魔力

さて美味しんぼでは、ガスで焼かれた鰻の蒲焼を登場人物が「こんなの蒲焼じゃない」と怒っています。

“ちっともふっくらしちゃいねえ。おまけに中はベショベショだ。鰻の香ばしさがねえのに、変に脂っぽい!!”

私も先週、某所でガスで焼かれた鰻の蒲焼を出されて、まさに同感といった心境にさせられました。(今では工夫すれば、それなりに「美味しい! 鰻がふっからほこほこして… それで少しも脂っぽくない」と仕上げることが出来ますけど)

そして炭火の良さが、主人公の山岡史郎によって語られています。

“都市ガスにはガス漏れの際に、人が気付くようにわざと匂いが付けてある… ガスで焼くとどうしてもその匂いがつく。しかもガスの成分は炭素と水素の化合物で、それが燃えると水蒸気が出る。そして炭火は赤熱した炭の上に鰻の脂とタレがかかって、それが焦げて上がった煙が鰻について、蒲焼の香ばしい香りが出来るんです。炭でなければ、この香は出ない。”

説得力のある説明です。

つまりお手軽にガスを使うと、昔ながらの鰻の蒲焼は再現できない訳です。なんか現代だと煙による煙害が心配になってしまうところですが、燻製と似ています。

そして史郎は炭火であれば水蒸気が出ないので、すっきりと鰻が焼き上がると説明しています。だから一般家庭では、鰻をさばいて蒲焼にすることが難しいのです。

(我が家では鉄板焼きでさえ、奥さんが許可を出しません。最近の住宅だと換気方式の関係で、匂いが残りますからねえ)

ちなみに主人公は、さらに鰻の蒲焼ほど風味が失われやすいものはないと言っています。

“炊き立ての熱い丼飯の上に焼き立ての蒲焼、これが鰻を一番うまく食う方法だ。”

私もその通りだと実感しています。

鰻の蒲焼というのは「脂の乗った焼き魚」であって、時間と共に脂が抜け落ちて行きます。自宅に持ち帰った鰻の包み紙を見ると、そのことが良く分かります。

野田岩の持ち帰り鰻の蒲焼

だからデパ地下の蒲焼にも、厳しい評価を下しています。

“作り置きしたのを温め直して出すなんてのは論外だ。すぐに冷めて風味を失う。鰻をいったん裂いたら渋滞なく白焼きして蒸して、タレをつけ、焼いて、そのまま一気に出す。わずか一か所手を抜いただけでも、ただの焼き魚に堕ちてしまう。”

本当に、とんでもない食べ物です。だから注文してから焼き始める専門店も多く、一時間近く待たされることもある訳です。

そんな訳で私の親父さんは鰻の蒲焼ではなく、寿司の方を好んで食べていました。実家に重箱はありましたけど、鰻で使われることは皆無でした。

(ちなみに親父さんは海原雄山と名前は似ていますけど、外見は全く似ていませんでした)

冷凍ウナギ

さて「デパ地下ウナギ」が今一つな理由も分かって来ましたけど、今回問題となっているのは冷凍ウナギです。

最近ではフリーズドライ技術などによってインスタントコーヒーも改善されて来ましたが、果たして通販などの冷凍ウナギはどこまで通用するでしょうか。

これは自ら試してみたところ、けっこう使い物になります。少なくとも我が家では、外食代わりに役立ってくれています。

ただし「何でもオッケー」という訳ではありません。

残念ながら日本一を謳うようなお店でも、近所のスーパーのは「ゴムみたいな皮じゃないので食べれる」といった程度です。真空パックでないので、脂や香が完全に飛んでいます。

それに一流店で焼かれた真空パックの冷凍ウナギの蒲焼であっても、同じ店の「焼き立ての鰻」には敵いません。

ただしインスタントラーメンとかカップラーメンのように、独自の調理方法によって興味深い仕上がりとなっています。「鰻の蒲焼」のお菓子というイメージでしょうか。

ちなみに私の場合、冷凍ウナギは次のような調理方法となっています。

[関東風]

  1. 氷水でウナギを解凍
  2. 重箱のご飯にタレをかけ、電子レンジで高温に
  3. 熱湯でウナギを4分ほど湯煎
  4. 重箱の御飯に入れて30秒ほどチンする
  5. 3分ほど蒸してから食べる

(ちなみに鰻の蒲焼を御飯の中に埋め込むのがベストらしいです)

[関西風]

  1. 氷水でウナギを解凍
  2. オーブンで音が立つまで焼く
  3. 重箱の御飯に入れて食べる

なお砂糖を使わずに醤油と味醂(ミリン)をベースとする鰻専門店が多いですが、我が家の冷凍ウナギのタレ(付属品)には和三盆だとか水飴が使用されています。

いったん解凍したら再解凍は無理なので、大型パックだと食べ切ってしまいます。ちょっと勿体ないけれども小分けな小パックだと味わいが今一つなので、最近は出来るだけ大型パックを購入しています。

ちなみにお値段はお店と殆ど変わりません。職人さんが裂いて焼いたものであり、サービス料が送料に代わるといった塩梅です。

なお調理方法によってお味は大きく変わります。先日は湯煎を20分やって日本酒で蒸してみたら、ガムのような鰻の蒲焼になってしまいました。

それから興味深いことに4人で試食してみたところ、どこのお店の冷凍ウナギが良いかで、見事に意見分裂しました。

我が家では「至高のメニュー」や「究極のメニュー」を目指している訳ではありませんけど、ブラインド・テストで和三盆のタレが人気を博したり、なかなか人間の味覚というのは興味深いです。

あと香りの再現も難しいですが、とりあえず炭火焼の匂いを再現できているお店も存在します。こういったノウハウは、少しずつ他店にも拡がるかもしれません。

(全ては購入者がどのように振舞うかでしょうか)

まとめ

冷凍ウナギだと「変に脂っこい」という問題には遭遇しませんけど、やはり調理の間に脂が落ちてしまうというのが課題です。

ただしその分だけ「カリカリ」とお菓子っぽくなる程度で、これはこれで「冷凍ウナギの蒲焼」というジャンルとして成立しつつあります。

ただし日本人のソウル・フードとしては、やっぱり焼き立ての鰻の蒲焼が一番でしょうか。

それから私はエラそうに語っていますが、23区内の名店では食べた経験が殆どありません。

今は不要不急の外出は自粛する時期ですが、いずれ機会があったら訪問してみたいものです。

(自動車で訪問すれば良いのでしょうけど、私は車の運転が苦手という致命的弱点が…)

それでは今回は、この辺で。ではまた。

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記事作成:よつばせい