雑記

ショートショート小説:よつばみかんの大発明

ぱくたそ素材:川村友歌

「ようやく完成したわ!」

よつばみかんは喜んで、声に出して小踊りした。

「みかん、いったい何が完成したの?」

その様子に驚いて、友人の友里恵が不思議そうに尋ねた。たしかに、訳の分からない冷蔵庫のような機械が置かれている。どうやら、みかんが作り上げたものらしい。

みかんは友里恵の質問に対して、得意げに答えた。

「強制転送型タイムマシンよ!」

「えっ、何? ただのタイムマシンではないの?」

なにやら面倒な名称に、友里恵は思わず尋ねてしまった。

「そう、ただのタイムマシンじゃないの。未来に送りたい物体を強制的に装置内に転送させて、それを未来に送り込んでしまうの。フクティブ転送機の動作機構をタイムマシンに組み込んでみたの」

どうやら友里恵の友人は、とんでもないものを発明したらしい。あの父親にして、この子ありといったところだろうか。しかし彼女はデザイナーだ。技術的なことは、さっぱり分からない。

「つまり、具体的にはどういうこと?」

みかんと友里恵の付き合いは長い。小学校以来なので、このような時には具体的な質問をした方が良いと、友里恵は良く理解していた。

「たとえば私のトンデモ親父の写真をここに置いて、ボタンを押すだけで、地球のどこにいてもアイツを未来に送り込むことが出来るの」

彼女は得意げに鼻息を荒くして、説明を続けた。

「まずAIが画像解析して転送物体と識別したら、世界中のコンピュータと防犯カメラが連動して、転送物体の座標情報を特定するの。特定できたら、このタイムマシンの中に転送されて、同時にタイムフィールドによって未来へ転送される仕掛けよ」

なるほど、友里恵のご学友は、どうやら父親と縁を切りたいらしい。たしかに彼女から見ても、みかんの父親は変人だった。未来へ追放したいという気持ちも、分からないでもない。

「みかん、たしかに大変な発明だけれども、時間の果てまで送り出せるのかしら」

さすがに顔見知りなので、少し気の毒になって彼女は尋ねた。

「うん、それが少し残念なところなの。送り込めるのは、このタイムマシンによって生成されたタイムフィールの中、つまり機械が壊れずに稼働している未来にしか送り込めないの。メンテナンスしないと動かなくなるから、たぶん私が年老いて亡くなる直前くらい前が限界かな」

それを聞いて、友里恵は少し安堵した。みかんが生きているということは、少なくとも未来の氷河期だとか、人類が滅亡した後に送り込まれることはないだろう。

「もう首が回らないほど借金をして苦労したけど、アイツの邪魔がなければ研究に専念できるわ。すぐに借金返済も終わるでしょう」

たしかに、みかんの首の周りには、コルセットのようなものが巻かれている。彼女はしばしば寝違えて首を痛めることは有名だったので、ようやく友里恵は最初に彼女を見た時の違和感に気がついた。

「さっ、ぐずぐずしていると親父に気付かれてしまうわ。早く強制転送型タイムマシンに活躍して貰わないと…」

そういうと、みかんは機械のカメラ・アイの前に父親の写真を置いた。どうやら本気らしい。

さすがに友里恵は、彼女の父親が少し気の毒になってしまった。しかし、このように暴走した友人を止めることは無理だと分かっている。彼女は静かに、みかんの父親が少しでも幸せな未来に送り込まれることを祈って、そっと手を合わせた。

「3、2、1、スタートっ!」

そんな友里恵の心配に気付くことなく、みかんは躊躇なく実行ボタンを押した。

一瞬だけ、駅前のインスタント写真撮影機のようなマシンの中に、人影を見かけたような気がした。しかし目を凝らそうとしているうちに、その影は消え去ってしまった。

みかんは確かに天才である。おそらく彼女の父親は、間違いなく未来へ送り込まれてしまったのだろう。

「さっ、お腹が空いたわ。やることはやってしまったし、ご飯を食べに行かない。久しぶりだし、お祝いをかねて、ちょっと良いところへ行きたいわね」

そういうと、みかんは友里恵を無理やり引きずって、食事に出かけたのだった。

*****

それから数日の間、友里恵がみかんを見かけることは無くなった。心配になった彼女は、思い切って彼女のところを予約なしで訪問した。

驚いたことに、みかんは自宅で料理をしていた。大きな鍋で何人分もの料理を作っている。みかんは父親と母親の三人暮らしだったはずだ。少し驚いて、彼女は理由を尋ねた。

「うん、実験は成功だったわ。親父は私がマシンをメンテナンス出来なくなる時まで転送されたわ。でも….. 思い通りにはいかなかったの」

しぶしぶと、みかんは友里恵に事情を打ち明けた。

「未来の私は、現在の私とは立場が違ったのよ。まず年老いた私は、現在のピンピンとした父親がやって来て、アレコレとやかましく動き回るでしょう。それで大変に迷惑だと思ってしまって、タイムマシンの改造方法を父親に教えてしまったのよ」

なるほど、たしかに思い返してみると、みかんの説明は「未来へ転送できる」だった。

「で、親父は私がそれほど年老いていない時代まで送り返されたの。でもその時代の私も、親父がいることに我慢できなかったの。で、未来に送っても送り返されるだけだから、過去に送り返した訳… それも、自分の時代の親父もセットにして」

なるほど、どうやらSF小説などでお目にかかる、タイムパラドックスというものが起こったらしい。

「そして二人の親父を受け取った未来の私は、自分の時代の親父もセットにして送り返して… と、どんどん親父が増えていった訳よ。隣の部屋には、腹が減ったと合唱する親父が、17人ほど存在しているわ」

たしかに言われてみると、なにやら隣の部屋からは、にぎやかな人声が聞こえて来る。何やら調子っぱずれの歌を歌っている人もいるようだ。

「普通は自分と会ったら、どちらが本物の自分かを巡ってケンカしても良さそうでしょう。ところが私の親父と来たら、別にそういったことには興味がないみたいなのよ。それどころか力を合わせて私を鍛え直そうとか、もう迷惑千万という訳なの」

・・・・・ 友里恵も声を失った。あの父親が17人もいれば、それは頭痛どころの騒ぎではないだろう。

「ああ、こんな機械を発明したばかりに、大変なことになってしまったわ。少なくとも、世界に発表して商品化するといったことは絶対に無理ね。完全に時間の浪費よ。それにしても、隣の部屋の親父たちをどうしたものか.....」

友里恵は、今度は自分の友人のために、そっと手を合わせて祈ることにした。

ぱくそた素材:川村友歌

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記事作成:よつばせい